ウインドキャラバン地球観測の旅                新宮 晋

私は30年以上、風や水で動く彫刻ばかりを夢中になって作り続けてきた。そして いまだに新鮮な発想で制作が出来るのは、自然エネルギーの豊かさと奥深さが根底にあるからだろう。そんな私が、大気に包まれ、水が循環するこの私たちの地球について、もっと知りたいと思うようになったのは、当然のことだったのかも知れない。私は、組立運搬の簡単な、軽量で凧のような、風で動く彫刻を持って、私の全く知らない土地を探索する旅に出ようと思いついた。しかし、どんな場所を選べば良いのか?どんなきっかけから始めれば良いのか?皆目検討も付かなかった。
そんなふわふわした夢を最初に口にしたのは、1999年5月、パリのカフェ・ボブールで、友人の美術評論家ピエール・レスタニと軽い昼食を取ったときのことだ。私の話を熱心に聞いてくれた彼は、「これは君しか思いつかないプロジェクトだ。現実的なことは全て投げうって、これだけに没頭しろ」と励ましてくれた。オランダのダンス演出家イリ・キリアンと、夫人のサビーヌは、揃って拍手をして賛同してくれた。気が付けば私の回りには、建築家のレンゾ・ピアノ安藤忠雄、デザイナーの三宅一生、美術評論家の中原佑介などなど、才能に恵まれた、私にとって貴重な友人たちがいる。そして皆、このウインドキャラバンの企画に興味を持ち、一緒に考えて、力づけてくれた。ウインドキャラバンは、確かに私個人の考えから出発したのだが、最初の段階から多くの友人たちによって暖かく支えられていたことを、今つくづくと感じる。
場所を選ぶにあたっては、私の頭の中にある、ささやかな、地球についての知識と想像力をしぼり出すことから始まった。そして、世界中の友人たちの援助と偶然と奇跡が重なって、開催地が決定するでの過程は、物語が書けるほどドラマチックな体験だった。兵庫県三田市の私のアトリエ前に広がる水田を除いて、残り5ヶ所は全て、それまで私が行ったことのない未知の土地ばかりだ。そしてそこには、マウリ、サーミ、ベルベルといった、それぞれの土地に密着した独自の文化を持った先住民たちがいる。 今後これ以上、地球の自然環境を損なうことなく人類が生きていくためには、彼らから私達が学ぶことが多いのではないかと考えている。いずれも風が強く、電気のないところなので、地球の潜在エネルギーの調査には適していると思われる。
作品イメージ
作品数は合計21点、簡単な骨格にセール・クロスの風受け面を張ったもので、2種類からなり、それぞれの高さ約5メートル、重量は75kgと軽量で、組立、撤去の作業は人力だけで可能だ。移動は長さ6メートルのコンテナ1個に全て収まるが、その中箱が、各地では4基の風車を持つ小型発電所に変貌する。日本の水田以外はどこも強風で知られた所で、風車製作のアドヴァイザーであり、風力エネルギー研究家の牛山泉は、地球の潜在エネルギーを調査する絶好の機会と期待している。
ウインドキャラバンの開催期間は各地2週間程で、私たち夫妻はその間現場に滞在し、地元の子供たちと一緒に出来る活動を考えている。日本での、地元の子供達による昔ながらの田植えに始まり、ダンス演出家イリ・キリアンの振り付けで子供たちが砂丘で踊るブラジルまで、ウインドキャラバンにはずっと子供たちが参加し続けることになる。私たちは、昨年から今年にかけて、全ての現場を訪ね、地元での協力者を見つけ、具体的な交渉を進めている。

ウインドキャラバンを、私は単なる一芸術家による美術イヴェントで終わらせるつもりはない。世界を巡る旅の中から、地球の未来を考えるヒントが得られるのではないかと考えているのだ。進行状況は、常にインターネット等のメディアを通して世界中に発信され、終了後のレポートは、出版物や展覧会やテレビ番組等で報告される。