ウインドキャラバン モロッコ  - 土の村に住む人たち

会場に選んだタムダハトは、ワルザザートの北西36キロ、世界文化遺産に選ばれた有名なクサル(土の集合住宅)、アイト・ベンハッドゥから5キロの所にある。ここには端正なカスバ(要塞)の遺跡があり、現在80家族、700人のベルベルと呼ばれる人達がつつましく暮らしている。初めて私がタムダハトに出会ったのは、1999年3月最初のモロッコ訪問の時で、荒々しい生まれたての地球のような岩山に取り囲まれた地形と、気品のあるカスバの姿に強く魅せられた。

2月末フィンランド北端の氷の湖から送り出したコンテナが、無事会場に到着した時には、本当に嬉しかった。村の男性5人が手伝ってくれて、3日間で展示を完了した。急な斜面に、三本脚の台部を固定するのは困難な作業だったが、石ころだらけの斜面に慣れた地元の人達が巧みに手伝ってくれた。彼等は、釘を打つのにも手ごろな石を使う。

オープニングまでの予備日を利用して、村の小学校に行き、今までのウインドキャラバンの3つの会場のビデオを見せて話をした。6才から13才までの120人の全校生徒は、食い入るように熱心に見てくれた。日本からのクレパスと画用紙を贈って、絵と作文を描いてもらった。

4月14日11時から始まったオープニングには、首都ラバトから車で駆けつけて下さった、日本大使館の横山和彦領事夫妻と、広報文化科の赤岡さん、コーディネイトをしてくれた友人でマラケシュからやって来たメレヒ氏、それに日本やパリから来てくれた友人やプレス関係者が次々集まった。そこにメルギッチ県知事が到着されて、会場を巡回、風車小屋の発電装置などの説明をする。真青に晴れあがった空、赤みがかった岩山に透けるようなピンクのセールが映えて、見事に風景を演出していた。風は強く、作品達は元気に動き回っていた。

200メートル程離れた第2会場のカスバでは、太鼓と歌声に熱気がこもってくる。全員でそちらに移動。知事に続いて私も一言挨拶をして、その後子供達の絵の展示を皆で見て回る。踊り手56人、歌手100人、それに25人の太鼓奏者による、民族色豊かな壮大な舞踏は、トランス状態に入り、限りなく盛り上がっていく。こんな素晴しいオープニングは想像もしていなかった。

村人は気さくで親切だし、子供たちは陽気でとても人なつっこい。次々と村人の土の住居に招かれて、心づくしの料理や香り高いミント・ティーを頂いた。このベルベルの村は、わらと土をこねた、日干しレンガでできている。床や中庭は、土を固めたタタキで、部屋に家具らしいものはほとんどない。連日襲ってくる砂嵐の中で、どうやってホウキ一本で部屋をきれいに保てるのか不思議だが、きれいなじゅうたんを敷いて、居心地良く暮らしている。週2回来てくれる給水車からの汲み置きの水が飲料水で、燃料はプロパンガス、電気は無く、発電機で日が暮れてから夜10時半まで、なんとか 家に明かりはつく。最小限の食器を洗い回しながら、手作りのクスクスやタジンなど、信じられないようなごちそうを作ってくれる。子供たちは親の言うことを良く聞き、機敏に手伝いをする。教えてもらったベルベル語を真似て、何か言ってみるだけで、皆で大笑いをする。

このウインドキャラバンが、ワルザザートにも行ったことのない人たちに、ここも世界の一部だということを教えた意義は大きい、と言った人がいた。私たちも又、タムダハトのベルベルの人の生活の仕方から、多くのことを学んだ。
2001年4月22日
新宮 晋