ウインドキャラバン モンゴル - 大草原の真只中で

こんなに大きな空を見たことがない。こんなに果てしなく広がる草原に立ったことがない。一日のうちに四季があると言われる、標高1500メートルのこの高原では、天気も気温も風も、劇的に変化する。草原を生き返らせるスコール、巨大な虹、無限の形を生み出す壮大な雲、漆黒の空から降ってくるような満天の星。ここにいると、自分がいかに小さな存在か思い知ると同時に、宇宙も含めた大自然に包まれていることを実感できる。

首都ウランバートルから南へ40キロ、うねるような大草原の真只中の小高い起伏を、私は会場に選んだ。2年前初めてモンゴルを訪ねた折、車であちこち走り回った挙句に発見した風景だ。2キロ位離れたところに数軒のゲル(遊牧民のテント)がある以外、ここには人工物はいっさい見当たらない。21点の朱色のセールを張った作品群は、風をはらんで舞い続け、小型風力発電所を兼ねた風車小屋は、まるで本物のゲルのように、遊牧民の社交場として賑わっている。入口には馬が繋がれ、中では馬乳酒が汲み交され、風力発電によって上映されるキャラバン各地のビデオに、人々が見入っている。

7月15日のオープニングセレモニーには、サンジット文部大臣、花田日本大使夫妻、フランス大使、それに鴻池一季夫妻等が出席して下さった。日本からこの日のために駆けつけてくれた友人たちは約70人、それに、どこから現われたのか、馬に乗って続々と集まってきた千人近い遊牧民と子供たちで、会場の雰囲気はいやが上にも盛り上がった。開会の挨拶が始まり、子供の代表は、「我々には一つの太陽と、一つだけの地球がある」と、自然の尊さを言い切った。それを合図に、前日120人の子供たちが絵を描いてくれた連凧が空に舞い、子供たちによるナーダム(相撲、競馬、弓による伝統的な競技会)が始まった。相撲には32人の青年たち、競馬には56頭の二才馬に乗った6才から8才の子供たち、弓技には8人の少年少女が参加した。競技と平行して、伝統的な馬頭琴等の演奏や唄、ユニークなホーミィの歌声に加えて、子供たちの演奏、歌、踊り等が盛り沢山に繰り広げられた。

オープニングが終わるとウインドキャラバンは本来の地道な姿を取り戻し、私たちは子供のサマー・キャンプに講演に出かけたり、近くのゲルを訪ねて交流を計ったりした。一方会場には馬でやって来る遊牧民に加えて、ウランバートルから芸術家たちが次々と訪ねて来た。皆熱心で、目を輝かせて話に聞き入り、私にアドバイスを求めた。社会体制が変わって10年、彼等は若々しく好奇心に燃えていて、無限の可能性を秘めているように思えた。全く新しい表現で、モンゴルの風が芸術になり得ることを証明した功績により、私はモンゴル美術家協会等三団体から名誉会員に任命された。

近所のゲルを訪問した折、面白い噂を耳にした。ウインドキャラバンが来てから、この季節には珍しく風が吹き続けているので、人々は、あれが風を呼ぶ装置だと信じているというのだ。挙句に「今度は雨を降らせる作品を持ってきて下さい」と頼まれた。あいまいな返事でごまかしたが、その日の午後、落雷に続いて豪雨になったのには驚いた。モンゴルの人たちは、雨が降るとにこにこして喜ぶ。ウインドキャラバン モンゴルも今日が最終日、いよいよ次のブラジルで、ウインドキャラバン - 地球観測の旅は完結する。
2001年7月29日
新宮 晋